『ただ 始まりの場所に立てた歓びを、今は。』
















 「なーにふてくされてんNo?」

 背後から不意にかけられた声で、目尻を拭いもせずに振り返る。案の定、同じクラスの見慣れた姿があった。まあ語尻がアルファベット化しているような奇特な人物はこいつ以外知らないのだけれど。
「あれ、泣いてんDa。なんですか、憧れのセンパイにでもフラれちゃいましたKa」
「ふざけてると殺しますわよ(怒)」
全く真剣みを持たない相手の言葉に苛立ちながら、ぶっきらぼうに言い捨ててぷいとまた前を向く。風が、金色の長い髪をふわっと後方へ運んでいった。屋上で泣くなんて我ながらなんてベタな行動パターン。
「結局の所なんなのSa。まさか図星とか」
「違いますわ。…部の事で、ちょっと」
「部?……なんだ、そっちも後輩イビリなNo?」
 言った虎鉄の目線は、梅星の格好に注がれていた。確か昨日には色々と改造を施され始めていた制服が、完全に規定の物に戻っている。かろうじて彼女の命(自称)であるカメラだけは未だ首にかかっていた。が、それだけ。
「…そちらもですの?」
虎鉄の言葉とその声の雰囲気で察したのか、素早く表情が変わる。そういえば今は野球部ならちゃんと練習をしている時間のはずだった。
「Ah−。ここ、どの部でも一緒みたいだぜ?先輩が一番、先輩が偉い。どんな天才だろーが実力者だろーが後輩なら素直に先輩方の引き立て役としてすっこんでな・みたいな・Ne。」
 顔は笑っていたが皮肉りがちな言葉の端々に苛立ちを感じる。自分は文化部だったからまだ良かったが、運動部である彼の所属部活ではもっと扱いは酷かったのかもしれない。
 何より、彼は昔からプライドの高い方だった。実際に力はあるのだ。なのにそれより劣っている年長者達に馬鹿にされたり軽く扱われたりしたことは、多分相当な屈辱だったんだと思う。
「その割にラフな格好ですわね」
虎鉄の格好。野球のユニフォームがベースではあったが、上着は無い。上半身は真っ黒、そして頭にはいつも通りの派手なバンダナ。ほっぺの何か良く分からない飾りもそのまま。
「Han、ここだけよ、ここだけ。ちゃーんとセンパイの前では賢くちっちゃくなってますYo〜?」
 けたけたふざけながら言ったけれど、やはり本当は死んでも頭なんか下げたくない屈したくなんかない・そう思っていることだろう。
 「…いずこも同じ……ね」

梅星自身も身を持って感じていた。この不平等。

 報道の意義もろくに考えず写真の知識すら自分より乏しい人々が大半を占めている。なのにそんな人々にすら何も言うコトすら出来ない。まだ写真も撮らせてもらえないと言うし、記事なんて持っての外だ。それどころか梅星のマイカメラさえも没収されかけたのだ……冗談じゃない。


 不意に、再び、数人の先輩から言われた侮辱の言葉を思い出し、少しこみ上げてきた怒りを唇と一緒に噛み締めて、そしてくっと顔を上げる。
 「決めましたわ。(決意)」
「Ha?」
 不意に力強くなった彼女の声に、虎鉄が怪訝な面持ちで梅星の顔を見る。まだ目は潤んでいたけれど、さっきは悔しそうにぎゅっとひそめられていた眉が今度は人と意見を戦わせている時の彼女の凛々しいそれになっていて、目はきらきら日を受けて煌めいていた。
「私が必ず、この十二支報道部を変えてみせますわ(本気)。徹底した実力制と報道の意義である平等性、そして正確な情報伝達。全てを取り揃えた……私の、理想郷よ。」
 手の先が白くなるまで強く屋上の柵を握り締めながらそう言い切った梅星に、しばしぽかんと呆気に取られたあとで虎鉄は、…酷く楽しそうに嬉しそうに、笑った。
 「そーか、そーKa。そらぁ良いや、そんじゃな、俺も言わしてもらうZe」
二番煎じなのは悔しいけどNa・と付け加えてから、
「十二支の野球部は次の代には変えてやRu。今の二年生の先輩たちな、あの人たちはまだまともなんDa。三年はどーしよーもないが…だけど、まだ可能性はある」
 空を見つめる虎鉄の瞳は、悪戯をする時のようにぎらぎら光っていた。そう、これは悪戯。学校の伝統とやらに、ここまでずっと誰かと誰かが紡いできた慣習とやらに仕掛ける、大きな悪戯なのだ。あくまで、真剣な。

 「見てろ、今に俺は放課後中ずっと、いや、試合だってこの格好でやってやっからNa」
「あら、私だって絶対、私だけの報道スタイルで一日中動き回ってみせますわ(予言)」
「報道スタイル?…って、あのサンバイザーにスカーフにロングスカートKa?…それはやめといた方Ga」
「どーゆー意味ですの!!(怒)」
 予想を裏切らず素直に怒ってきた梅星を見てけたけた笑っていると、チームメイトとして仲良くなり始めたばかりの猪里がやって来た。何さぼっとーね虎鉄・と一通り叱っていく。
「へいへい、今行きますYo。…んじゃNa、梅星」
「いってらっしゃい、野球部の虎鉄くん(送)」
 どこか小馬鹿にしたような声を、へん・と鼻で哂った。



















 「早うせんと、キャプテンが怒っとうよ?」
「N−…って、“キャプテン”?キャプテンが俺らみたいな一年坊主のコト、気にしてんのKa?」
「んなわけなかやろ。牛尾さんたい、牛尾さん」
「…気ぃ早えNa、お前……新しい主将決めるの、まだ半年以上先だZe」
「そんなの関係なかよ」
 小走りにグラウンドへ急ぎながら、それでも言葉が何か意思を持ってゆっくりと紡がれて、虎鉄はちらっと隣の猪里を見てみた。目が真っ直ぐに前を見ていた。笑みすら浮かべて。

「俺らにとってのキャプテンは、いつまでだってあの人ばい。そやろ?」


少し間を空けて、虎鉄も笑った。可笑しそうに、楽しそうに。





 「ああ、そーDa。」








 そう、変えてみせるのだ。
 そしてその向こうの夢の場所に、行ってみせる。












 上着を少々忌々しげに着ながらも、虎鉄はそう心の中で繰り返していた。





































 「虎鉄くん!虎鉄!!」
明るい声音に、足を止める。後ろを見てみれば、もういい加減その明るさにも慣れた金の髪がすぐ近くまで駆け寄ってきていた。そして、その格好に、思わず驚きの声をあげる。
「お前、その服……」
「CAPですのよ!私、今日からはCAP――…事実上の報道部トップに立ちましたの!!(喜)」
 なかば叫びながらくるっと一回り。頭にはピンクのチェック柄のサンバイザーと色眼鏡、首に同じ柄のスカーフを巻いて、少し特殊なロングスカートに高めのブーツ。腕には腕章もしっかり付けられていた。紛れもなく、何も知らずただ高校の報道部への期待を胸にしていた時の彼女の姿そのものだ。
 「Ho−…んじゃ、今日からはお前が後輩いじめるお局さまDa」
「違いますわよ!(怒)でも…、今日からは野球部に貼り付きますからね。覚悟していて下さいな(忠告)」
「あはは。牛尾さんでも撮っとけYo」
 軽く談笑を交わした後に、ようやっと梅星も少し驚いたような表情を浮かべた。小首を傾げる。
「虎鉄、これから部活ですわよね?(訊)」
「N?ああ。」
「…上着、どうしましたの?いつもはぎりぎりまで脱いでるのに…、そんなハンパに羽織ったりして」
 確かに虎鉄は上着をボタンもかけずにただ羽織っていた。完全に脱ぐわけでもなく、先輩たちの前でそうしていたようにきっちり着るわけでもなく。

 不意に、虎鉄がにっと笑った。

 「もう着てよーが脱いでよーが、大して変わんねぇんだYo」
「え?」
きょとんと目を丸くした梅星をよそに、さっさと上着を脱いでしまう。梅星にとっては通常通りの、真っ黒な上半身になった。ぽいと無造作に投げたそれは、見事に彼女の腕に収まる。
 「え!?ちょっ、虎て…」
「やるわ。ホントは始まるちょっと前までは最後の名残に着とこうかとか思ってたんだけどNa、…俺、もー要らねぇから」
言われて、はっとする。即座に彼女の顔にも喜びが広がった。少し頬が火照る。
「それじゃあっ…」
「おう。」
グラウンドに向かって歩き始める。梅星もその後ろを付いていく。多分グラウンドの入り口では猪里が少し苛々しながら待っている。

「今日からだ。俺もお前も、」




















 「やっと、始まる。」























 歓びを噛み締めたように顔に笑みを広げながら、お前こそ覚悟しとけYo・とからかうように言って、だからこっちのセリフですわそれは・と彼女もやはり可笑しそうに応えた。














                                     ----------------End.
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 一度書いてみたいと思ってた二年生ズ。特に梅さんと虎鉄が書きたかったんです…「姐御」呼びってすごい萌える!(ぇ)
 猪里は完璧オプションですが完璧趣味です。普段書いてあげたいなーと思うことは少ないのに書いてみると可愛くて面白くてもっと書きたくなる(笑) でもやっぱ福岡弁はめんどいですね…「たい」と「ばい」の違いが分かんないんですけど誰か知りません?(知ってても教えないと思う別に)

 書いた当時なかなか気に入ってたんですが、今見ると結構消化不良なとことか文章つまりすぎてヘンなとことか色々あったので、そのうち直したいと思います。。多分忘れてしまう可能性大です(ぉーい