09. 君にあいに行こう(七橋)
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「あついわねえ」
気だるげに放たれた言葉に、返す余力も無い。淡く色付いてきた陽光が窓辺にだけ差し込む薄暗い教室の中、他の人々はそれぞれのポーズで、椅子やら机やらに足を投げ出していた。
「あぅ。アイス、もう溶けちゃったヨ……」
「もう…ってお前、五個目だろそれ。たとえ一個あたり一分で喰ったとしても溶け始める気がすんぞ、コンビニからここまでの時間も考えると」
「…桃食、過食。要 注意、腹痛」
「大丈夫ネこれくらい。大体、溶けかけたアイス程度の温度で壊れるほど朕のお腹ヤワじゃないヨ」
「量も問題よワンタン…」
「…っあ゛ーもう、うっせェうっせェ!ちくしょーなんだよこの空気、だるすぎんだよ!俺もう遊びに行っ」
「影州あんたそのプリントまだ半分も出来てないでしょ」
「……」
「朕だって頑張ってるのヨ、影州も頑張るヨ!!」
「影州 根気 不足。現状成績 進学 困難。」
「っだー!分かった分かった分かりました!やりゃ良いんだろ、やりゃっ」
ぐしゃぐしゃとこめかみの髪を掻き毟りながら、放置していたシャープペンシルをがたんという派手な音と共に取る。が、その先が紙に着くことは無かった。
「…あ――……」
ぱたん。と、机に伏せる。
「…野球してぇ」
「……」
「……」
「……」
うるさいぐらい細かく返って来ていた相打ちも、ぽつりと呟かれたこの言葉にばかりはしんと静まる。それは多分彼らも同じ思いだからで。
「なぁ、行っちゃ駄目かな、グラウンド」
「…駄目に決まってんでしょ」
「……不可。」
「影州、朕たちは引退したネ。負けたんだヨ。もう終わっちゃったんだヨ」
いつも明るい彼にしてはいつになく真鬱な表情で、きっぱりと言う。その王の言葉にくしゃりと顔を歪ませて、
「…終わったとか、言うなよ……。」
元気なく返した。王の言ったことが紛れも無い事実なのは彼自身よく分かっている。だから無理矢理にグラウンドへ向かおうとはしない。
しばらく、また、沈黙が降りた。緩慢な重い空気。
それを破ったのは、
「……。」
それまでただ黙々とプリントを進め、影州たちの会話に耳を傾けていた土本の、とんとん・と隣の王の肩を叩く大きな手だった。
「土本?どしたカ」
「そういえば今日はいやに静かねぇ、土本」
「ぐほぉ」
どう聞いても日本語ではない一声。しかし、その声に、その場の者みんなが顔を見合わせた。少し驚いたように、目を丸くして。
ややあって、ふっと紅印が微笑った。柔らかく。
「……そうね。どうせ今日はもう勉強なんて手につかなそうだし」
「俺らん家か雀ん家行けば、クーラー付きで快適な学習環境揃ってんだもんな」
「我家 蜘蛛多数。影州・紅印宅 希望」
「アイヤー、寮の部屋より多いのカ?じゃあ朕も紅印たちの実家がいいヨー」
「はいはい、その話はまた夜ね。明日の予定にしましょう」
「よーし、決まり!」
にか・と笑い、目を見合う。昔、みんなで話しあって悪戯を思いついた時のように。
懐かしいあの頃とは違う顔が一つ、足りない顔が一つ。
「――…あいに行こう。」
会いに行く、足りない顔の君に。やっぱり少し寂しいから。
夏の余韻はまだ胸に痛くて、振り返ると切ないけれど。もう同じ夢は追いかけられないのかもしれないけれど。
でも、今でも大好きだから、君のこと。
「会いに行こう、剣菱に」
会いに行こう。今は少し、現実を忘れて、大好きな君の笑顔を見たい。
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七橋主要メンバーほのぼの。剣菱さんは入院中、地区予選後のイベント(ネタバレにつき微妙な表記;)も終わって、夏休みに教室でだるだる勉強中なお話です。説明長っ。
十年近くかそれ以上、ずっと仲間と一緒に見てた夢が終わってしまったら、きっとすごく寂しい。そしてその仲間が一人足りないのは、もっと寂しい。何かことあるごとに病院にお見舞いに(と、称して遊びに)行ってればいいと思います、みんな(笑)
うちの七橋は基本的にみんな剣菱大好きですから。(剣菱はみんなのお父さんだよ…!(何言ってんだ))