08. あいにいくよ(牛屑)


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 きゅ・と革の手袋をしっかりとはめ直す。つま先で何度か地面を蹴り、靴の履き心地も確かめた。
「よし」
小さく呟いて、走り出す。






 本当はただ悲しくて寂しくていじけていただけなのかもしれない。そう、子供のようにつむじを曲げていたのは僕の方。

 誰にも言ったことはないけれど、あの頃僕は心の底で友人というものの存在を信じていなかった。家で学んだ通りに明るく笑って、穏やかに話して、優しくして。人と居るのは嫌いじゃなかったし楽しかったよ、だけど結局最後は裏切られるのだと子供ながらに思っていたんだ。ここで裏切り、なんて大層な言葉を使う辺りが全くの子供だったんだけれど。
 それは多分大したことじゃない。でも僕には辛かったし悲しかった。

『牛尾ん家って凄い金持ちなんだろ』

 その一言だけで、僕はつきりと胸の奥が痛み始める。
 彼らの目は様々だ。心から感嘆していたり、羨望していたり、そして嫉んでいたり。ハッキリした悪意などどこにも無い、でもその目で見られるだけで、僕は僕が“牛尾御門”じゃなくて“物凄く金持ちな牛尾御門”とみなされているような気がしたんだ。それが、厭だった。
 こんなの、君にしてみたらやっぱり贅沢な悩みってなるんだろうな。少し前なら僕もそう思って、そして罪悪感なんかも感じていただろう。
 でも今は少し違うよ。恵まれていることは否定しないけれど。でも、罪悪感なんて感じない。
 そんなもの感じること自体が傲慢なのだと、やっと気付いた。
 君の本音を聞いたおかげで。




 ねえ、僕、実はあの時失望なんてしてたんだきっと、君に。
 君は出逢ったその日からライバルで友達で。僕の家のことを知っても『そうか』と呟いただけですぐに守備練習をしようと言ってきて。
 君だけは僕の家が裕福だなんてこと気にしないで付き合ってくれる。そう思って、嬉しくて。だから、君に「やはり相容れない」と言われた時。

 ああ君もか・なんて、思った。

 君にとってもやっぱり僕は“物凄く金持ちな牛尾御門”だったんだ、そう考えたら悲しくて悔しくて、それで僕までそっぽを向いてしまった。ああ考えてみれば本当に子供だったね、咎があるとしたら僕の方だと、少し考えればすぐに分かっただろうに。
 裕福であること、それを誰より気にしてたのは周りでも君でもない、僕だった。気にして、いつも頭にそのことを置いて、そのまま君にまで接していた。
 “やはり”相容れない。
 君はきっとそんなこと抜きで僕と一緒に居ようと努力してくれたんだよね。でも結局駄目だと思って、だから“やはり”。
 気付きもしなくてごめんなさい、勝手に失望なんてしてごめんなさい。むしろ僕がもっと早く君に失望されてもおかしくなかった。

 なのに最後まで失望はしないでくれてありがとう。


 君はただ離れただけだった。そこまで言葉にはしなかったけれど、きっとお互いが傷つく前に溝が深くなる前に、距離を置いただけなんだろう。
 ずっとずっと気付かないでいてごめんね、でももう解ったよ。全てを理解することは人間として不可能だけれど、でも多分前よりは。
 だから、分かったから、会いに行くよ。何度でも。
 自分が普通であるよう努力する、そんな必要は最初からなかったんだね、君は誰より僕を僕として見てくれるから。あとは僕が僕であるだけだ。
 少し大人になりはしたけれど、でもやっぱりまだまだ甘い“お坊ちゃん”で君からすると苛々するだろう僕に、これからもまた『やっぱり駄目だ』なんて言われることがあるかもしれないね。
 でも今度は僕は諦めない。
 大丈夫だよと軽く笑って、また会いに行く。


 大丈夫、傷つかないよ。君の目がどんな色に染まっても、僕はその奥に変わらないあたたかさが、繋がりがあると信じよう。
 君の僕への感情がどんなものになったとしてもどんなものを含んだとしても、君は君だよ。僕は知ってる、君が誰より潔癖で優しかったこと。

 だから、大丈夫さ。














 「屑桐ー」
「…なんだ、貴様か。なんの用だ」
「ランニングだけど、見て分からない?」
「ランニングは分かるがわざわざ俺の隣に来るのが分からん」
「君も走ってるから一緒に行こうかと思って」
「要らん」
「あっ冷たい」
「当たり前だ。お前、言っとくがな、俺は完全にお前と打ち解けたつもりはないぞ。あくまでまだ希望はあるかとかそういう…」
「こうして一緒に走るなんてこの選抜が多分最後の機会だよ、良いじゃないか」
「……。お前昔より人の話聞かなくなったな」
「主将って聞くより話すことの方が多いからねー。いや、聞くのも勿論大事なんだけどさ、やっぱ比重ってものが」
「……言ってろ」


 呆れたように呟いてそっぽを向くその表情も。少しずつだけど砕けてあの頃の口調に近づいてくるその言葉も。
 ほら、やっぱり君は君だ、と、嬉しくなるんだ。





 会いに行くよ、何度でも。今度は僕が努力する番だから。
















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 今度は牛→屑という感じです。和解後。うちの牛屑はどうも屑さんが振り回されキャラな感がある…(笑)

 09番「君にあいにいこう」とこの「あいにいくよ」の違いが微妙で、どうしようかな〜と思ったんですが。なんか、「あいにいくよ」は「君がどうでも僕は行くからね」って感じで、牛さんな気がしたんです。ちょうど屑牛書いたあとだったし。で、こっちを牛屑ということにして、もう一個はぽっと浮かんだ七橋で決まり!ってことで。要するに七橋の方が発案は後だったんですけど…牛屑は思いついたのが風呂場で、そのまま暫く妄想してしまったもので;;私一回文章思いついちゃったらその場で書き残しておかないとあとでは絶対思い出せないんですよー;しかも絶対一回目に思いついた方がいい文章なんだ畜生(ぇ)