06. いつでもあえるよ(犬芭辰)
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もうずいぶん古びてきてしまった墓石。
何度来ても、この前に立つと得体の知れない不安に襲われる。不安、というのだろうか、どちらかといえば過去への後悔で懺悔の念もあって少し郷愁、懐古にも似て。
「犬飼くん?」
呼ばれてはっと我に変える。どうかいたしましたか、そんな風にいつもの如く丁寧な口調で気遣ってくる旧知の仲の彼に、なんでもない・と首を振った。持っていた桶から柄杓を取り出し、水をかける。涼しげな音を立て、透明なそれは墓石の表面を濡らして濃いグレーに変えた。
「あ、待って下さい、古い花を換えますから――…」
そこで途切れた声音が不自然に聴こえて、不審に思い顔を上げる。辰羅川が目を丸くして固まっていた。その視線の先を追い、
「……。」
彼が固まった理由を瞬時に察して、そしてこちらは酷く渋い顔をした。唇を噛む。
相手方も驚いたのは同じだったらしい。目を丸くして、それから犬飼と同じように顔をしかめた。しまった・と自分の失敗を悟り悔やみ、どうしようもないばつの悪さを感じた顔。
三人の中で一番に口を開いたのは、辰羅川だった。おずおずと、その声に懐かしい名前を乗せて。
「…御柳くん」
「……っあー、やだやだ。たかが散歩でこんなろくでもない顔見るハメんなるなんて今日はツイてねー」
辰羅川の柔らかい声音を遮るように、明らかにわざと張り上げた声でいつも通りの悪態をつく。犬飼はすぐにそれに乗って何か言おうとしたが、辰羅川に制されて思わず口をつぐんだ。辰羅川はあくまで穏やかに、ゆっくりと話す。
「霊園などへ散歩に来る人がどこにいますか。それに、その花はなんです」
「……別に」
「お参りに来たのではないのですか?」
「……っ」
「一緒に手を合わせませんか。」
やんわり微笑って言うと、御柳だけでなく犬飼も目を丸くして辰羅川を見た。そんな彼らに、当たり前のことを言うように、
「目的は同じ。別に、一緒で困ることもないでしょう」
「……。」
黙って、二人、顔を見合わせる。もう一人が言っていることに対して、どう思う・と。それはほとんど昔の癖に近くて、すぐハッと我に返りお互い目を逸らした。
そして、ずいぶん時間はかかったけれど、気まずげにだけれど。
「……ああ。」
頷いた。犬飼も、特に反対はしない。
綺麗に墓石を濡らし、新しい花を(御柳の持ってきたものも合わせて)供え、手を合わせる。目を閉じれば懐かしい笑顔が霞まずに浮かんだ。多分他の二人もそうなのだろう。
「……思えば」
不意に声を発したので、犬飼と御柳が目を丸くして顔を上げた。構わず続ける。
「思えば、私達は…あの日から、ほとんど言葉を交わさずにいたのですね」
「…当たり前だろ」
不機嫌そうに言ったのは犬飼で。
「とりあえず、顔も見たくなかったからな」
「こっちのセリフだよ」
「んだと」
いつものように憎まれ口を叩いた御柳に再び乗りそうになった犬飼を、
「もしも…一言で良い、もしも何か言葉のやりとりがあったなら」
今度は声で制した。特に張り上げた声でもない、直接喧嘩を止めたわけでもないその言葉に、けれど二人ともぴたりと動きを止める。
「そしたら、私たちの中学・高校生活は…何か変わっていたのではないでしょうか」
ゆっくりと紡がれた言葉に、犬飼も御柳もかすかに顔を歪めた。それは不機嫌と言うよりは哀しそうな。苦しそうな。
あるいはもっと複雑な。
「…知るかよそんなの」
少し顔をそらす。落ち着き無さそうに首を掻く仕草はどこか幼い頃に似ていた。
「知らねえよ。もしも・なんて、あるわけねェだろ。そんなの……」
唇を噛む。なんだか泣きそうな顔に見えたけれどきっと気のせいだと犬飼は思った。
「…そんなこと、今更、言うなよ。」
その表情とその声はきっと真実なのだと辰羅川は思って、微笑った。
「…そうですね。今更。……詮無いことです」
でも、と続けた。
「これからのことは、きっと、話し合う価値があると思いますよ」
「……。」
驚いた顔の二人にくすくす笑う。ねえ、そうでしょうと憧れの遠いあの人に心の中で呟いて。
「まだ一年生。時間はありますし」
「……」
「三人とも、それなりに大人になれたと思いますし」
「…うっせーよ」
「それに、いつでも会えるでしょう」
「……。」
「……あ」
にこ・と笑う。少し切なそうだけれど、心から笑っていた。
まだぽかんとしている大事な大事な親友たちへ。
「会えますから、私達は」
どうして何年もずっと顔をそらし続けてきたのだろう。
たった一度で良い、ちゃんと向き合えば、もしかしたら何か変わったんじゃないだろうか。
そう後悔するのは簡単で、少し哀しいけれど心にはラクなことで。でも結局全て過去のことだ。どうしようもない過去のこと。
今向き合うべきなのはこれからの未来。そして未来に繋がる現在の自分たち。
いつでも会える、それは儚い希望的観測なのかもしれない。少なくともあの頃、あの人に対し、自分は間違いなくそう思っていた。その時は結局打ち破られてしまった“当たり前のこと”。必ずしも絶対でないことは、誰より自分達が知っているだろう。
でも、それでも信じてしまうのが、人間ってものじゃないのかな。
「ねえ。会える、ということ。…物凄く幸せなことじゃないかと思うんですよ、私は」
今君たちに会える。明日君たちに会える。
当たり前のようでいて、本当は至高の幸せなのだ、きっと。
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このお題は犬芭辰トリオだ!と決めてから長いこと放置してました06番。えらいほのぼのになりました…ていうか最近のジャンプ見てから私の中での芭唐というキャラがだいぶ変わってきてます。すごい可愛らしい素直な好い人になっちゃってきてます。絶対鬼畜っぽい奴だと思ってたのになぁ…でも今の方が圧倒的に好き(笑) 基本的に、天才キャラでもいいけど何処か人間臭いキャラの方が好きなんです。
犬芭辰、ちゃんと仲直りするとこが早く見たいですね。。
しかし、この話はほのぼので終わって結構お気に入りだったりするんですが、03番の白雪さんと比べるとものすごく切ないです;(白雪さんが) やっぱり、好きな人と会えるってことはとても幸せなことなんだよなぁ、と思います。忘れがちなことだけど。。